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2007年10月22日 (月)

アメリカ軍の新海洋戦略

■地球上のほぼ7割は、海(洋)である。制海権をいかに握るかは、今も重要であろう。

米軍 新海洋戦略を発表

【ワシントン=有元隆志】米軍は17日、新海洋戦略を発表した。軍事的に重要な地点で活動する前方展開戦略、抑止力の維持や、同盟国などとの協力強化に加え、災害時の人道支援など「ソフトパワー」の重視も打ち出した。

 新戦略は海軍、海兵隊、沿岸警備隊が合同でまとめた。3つの組織が共通戦略を打ち出すのは初めてという。2001年の米中枢同時テロ後の、相互の連携を重視したものといえる。

 冷戦時の米軍戦略は旧ソ連対策に重点が置かれた。旧ソ連崩壊後、米軍は世界で唯一の超大国となったものの、新戦略ではテロとの戦いなどに対処するうえで、「世界の海全体の安全を1カ国だけで確保できる国はない」と指摘した。

 米軍は必要なときには対処する能力は持っているとしながらも、「(各国との)信頼や協力は急にできるものではない」として、同盟国などとの信頼関係の構築の重要性を強調した。

 貿易の要衝でありながら、不安定な地域でもあるアラビア湾、インド洋などでの航行の自由確保も重視した。

 さらに、テロ対策に加え、災害時などの人道支援、大量破壊兵器の拡散防止に早期対処する必要性も訴えた。以下、略・・・ 引用:終わり

引用元:http://sankei.jp.msn.com/world/america/071018/amr0710180036000-n1.htm

■この度のエントリは、ブログということもあり、ログとして、この新しいアメリカ海軍の戦略について、その背景、及び、戦略目的(狙い)を考えてみる。

■まず、この、17日に出されたアメリカ国防省の声明を引用する。(国防省の声明

New Maritime Strategy Released
               The Navy, Marine Corps, and Coast Guard have released “A Cooperative Strategy for 21st Century Seapower,” a unified maritime strategy that explains the comprehensive role of the sea services in an era marked by increased globalization and change. This is the first time a unified maritime strategy has been signed by all three of the sea services.
                The strategy integrates seapower with other elements of national power in addition to that of friends, partners and allies. It states that protecting the homeland and winning the nation’s wars is matched by a corresponding commitment to preventing war. Additionally, it codifies the requirement for continued development and application of existing core capabilities of forward presence, deterrence, sea control and power projection, while recognizing the need for expanded capabilities of maritime security and humanitarian assistance and disaster response.
                “This strategy addresses the balance of capabilities of our maritime services. It reaffirms our core capabilities of forward presence, deterrence, sea control and power projection. It also commits our maritime forces to increased international cooperation for the benefit of all,” said Navy Adm. Gary Roughead, chief of Naval Operations. “It reflects the expectation of the people of the United States to be a strong maritime force to protect our homeland and work collaboratively with partners around the world to secure and stabilize the global waterways that are critical to our prosperity.”
                “While we must maintain a balance of forces to be able to deliver credible combat power as deterrence, we also believe preventing wars is as important as winning wars,” said Marine Gen. James Conway, Commandant, U.S Marine Corps. “We need to be the most ready when the nation is least ready.”
                “Keeping the seas safe and secure from a broad range of threats and hazards is in everyone's best interest, said Coast Guard Adm. Thad Allen, Commandant, U.S. Coast Guard. "The key to global prosperity and security is through cooperation and coordination."
                The strategy was developed collaboratively, using an open and inclusive approach that drew upon the insights of academic, business, civic and military leaders and strategists. The resulting strategy binds maritime services more closely together than they have ever been before to promote stability, security and prosperity at home and abroad.
尚、アメリカ海軍のサイトにも、同様のリリースがある。(アメリカ海軍のサイト
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■まず、注目すべきことは、海軍、海兵隊、沿岸警備隊を統合した戦略であるということである。また、従来までの、前方展開、抑止能力を高めるとともに、パワープロジェクション能力や、テロ対策に海上・沿岸から、総力をあげるといったところだろうか。さらには、人道援助や、災害救助にもあたるといった内容もある。
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■この背景だが、引用文には、「グローバル化と変化に伴う、新しい21世紀型の海洋戦略である」とあるが、具体的に考えられることを挙げてみる。まず、主に、「不安定の孤」といわれる、中東から、極東にかけてのシーレーンにかけて、アフガンや、イラクで大変、アメリカは、苦労している。もっとも、集中したい地域において、大規模に海軍を展開し続けることが困難になっているのだろう。グローバル化が進行する中、海上においても、人、モノ、カネなどの移動がかなり自由になっている。これは、まだ、疑惑つきだが、シリアと北朝鮮の核コネクションなどが良い例である。又、中国やインドの台頭も変化である。それゆえ、中国とは、戦略的に共存にあるし、インドとは、新たなパートナーシップの構築を目指している。Foreigen Affairsにバーンズ元国務長官の論文が掲載されている。(America's Strategic Opportunity With India)冒頭部分だけ引用する。
As we Americans consider our future role in the world, the rise of a democratic and increasingly powerful India represents a singularly positive opportunity to advance our global interests. There is a tremendous strategic upside to our growing engagement with India. That is why building a close U.S.-India partnership should be one of the United States' highest priorities for the future. It is a unique opportunity with real promise for the global balance of power.
■アメリカのグランド・ストレテジーとは、簡単に言えば、地政戦略家 トマス・バーネット氏や、ニューレフトのウィリアム・アぺルマン・ウィリアムズ氏が指摘したように(両者の結論は、まったく異なるのだが)、その共通性として、グローバルに安全保障分野にせよ、市場マーケットにせよ、開放させ、拡大し、その国家に、コミットメントとして、自国の国益にするという戦略がみられる。つまりは、対外諸国へのコミットメントにより、その諸国に影響力を強く行使できるようにするシステムである。それゆえに、「非公式な帝国(informal empire)」と呼ばれてきた。そのような戦略は、主に海上を利用(経由)する側面もある。
 
ただ、この度のインドとの関係強化は、それだけはないだろう。上記にも書いたが、アメリカは、シーレーンに接するリムランド諸国との関係で、大変、苦労している。単純に地政学的に、ハートランドの中国、ロシア向け封じ込め戦略もあるだろうが、管理人は、特にこのエリアにおいて、アメリカのパワーは、相対的に低下しているとみている。その根拠は、すでに、上記に記しているが、中国やインドの台頭、アフガン、イラクで混迷、又、オープンな戦略をとってきただけに、それが返って、国際テロリズムの脅威を増し、アメリカ自身の脅威にもなっている。それゆえ、沿岸警備隊なども含めた、統合戦略なのだろう。言うまでもなく、反米国家の増加、反米感情の増加があることは言うまでもない。その対策として、人道支援、災害救助などの広い意味でのソフト・パワーの併用であろう。パワー力学から言えば、ハード・パワーに傾斜し過ぎて摩擦、軋轢を起こせば、自然とソフト・パワーに関心が向き、重視するようになる。
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(*ハートランド・リムランドについては、簡単なもので、Wiki英語版を付記しておく(参照))
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■このように考えていくと、イラク戦争というのは、中東湾岸地域にアメリカの戦略的拠点を築くことが、主たる目標であろう。この地域から、大規模にアメリカ海軍が展開できれば、最後のリージョン、アフリカ大陸に対して、かなり容易にコミットメントできる。すでに、国防省は、アフリカ軍を創設している。過去のエントリが参考になるだろう。(アメリカ:アフリカ軍の新設)このように、アフリカに対する戦略もあるだろう。
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■さらに、「友好国、同盟国と連携、協力してグローバル・セキュリティにあたる」ともある。
これは、、上記にすでに書いたことと同じ背景だが、アメリカ外交の伝統的なマルチラテラリズム路線への回帰であろう。ユニラテラリズムの限界、21世紀型の変化に伴う脅威には、アメリカ一国では、対応できないことを指している。ここにもアメリカのパワーの相対的な低下がみられる。
・この統合戦略の目的をまとめると
①グローバルなパワーバランスと同盟国との協力(アメリカのパワーの相対的低下)
②ハードとソフトの併用 (対中東諸国、対アフリカ諸国)
③本土防衛を第一にするテロ対策
(④対中国、ロシア戦略:ほぼ①と同じ)
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■WWⅡ後、冷戦期のような、極めて簡単に言えば、太平洋を挟んで日本、大西洋を挟んでイギリスというだけでは、アメリカが国力を維持、国益を確保することは、もはやできない。EUも基本条約を結び、国際関係でのプレゼンスを高めている。しかし、戦後のアメリカの海洋戦略の軸は、イギリスと日本であることには変わりない。日本は、アメリカの同盟国として、どこまで、自国の戦略と重ねながら、主に、シーレーンで、海自を展開できるのだろうか。テロ対策新法(仮称)には、このような目的(意味)も含まれる。
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■結局のところ、アメリカは、過度のユニラテラリズムとハード・パワーの行使が、あまりに、リスクとコストが高くつくということと、アメリカ一国で対応できる問題への限界からの反省なのだろう。かなり、批判的に書いてきたが、このような、協調路線こそが、アメリカの戦略様式である。
/ (記事の間の/は、改行が反映されないため、読みやすいよう区切りとしての役目)
*今日の一冊:『海の友情ー米国海軍と海上自衛隊』 阿川尚之著 中公新書

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