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2007年6月22日 (金)

慰安婦決議案採択への所感

■この件については、もうすでに、多くのブログで扱われている。管理人のリンク先にもある、雪斎殿SAKAKI殿もすでに、論じている。特に管理人がいうことは、もうないのだが、一言だけ、述べておこうと思う。

慰安婦決議案、26日に米下院外交委員で採決へ 「多数で採択」か

【ワシントン=山本秀也】米下院当局者は18日、慰安婦問題に関する対日非難決議案が、26日午前(日本時間同日深夜)、下院外交委員会(ラントス委員長)で採決されることを明らかにした。決議案の委員会採決は、提案議員らが当初見込んでいた5月の実施が先送りされていた。

 決議案の共同提案議員は18日現在、与野党で140議員に達した。ラントス委員長は16日、地元ロサンゼルスでの集会で決議案処理に触れ、「決議案は多数をもって採択されると予言しておきたい。本会議に持ち込むことも私の責任だと考える」と語っていた。

 日本側では決議案採択の阻止に向けた下院議員への説得工作を強める一方、さきに訪米した安倍晋三首相がラントス委員長、ペロシ下院議長らに対し、慰安婦問題に関する同情の気持ちを伝えていた。

■従軍慰安婦問題を主眼にした歴史認識問題に関してはすでにエントリした。そちらを参照して頂きたい。(参照

又、管理人は、安部総理訪米時のこの問題に対する対応を評価している。このことも、すでにエントリ済みである。

この決議採択への、抵抗なのだろうか、日本国の名誉とプライドのためなのだろうか、その意図は、釈然としないが、ワシントン・ポストに有志からなる、およそ5部構成の『THE FACTS』という広告が掲載された。

序文だけ、引用しておく、詳しくは、SAKAKI殿のエントリにも、リンクされている『美しい壺日記』さんのブログを参照して頂きたい。(ワシントンポスト全面広告

THE FACTS

The purpose of this paid public comment is to present historical facts.

At the end of April, an advertisement purporting to tell "The Truth about Comfort Women" appeared in the Washington Post. The claims contained in these statements, though, were anything but the "truth." Rather than being base on "facts," they appeared, if anything, to be the products of "faith." The people of Japan have the highest respect for the United States as a fellow democratic nation and as a strong and reliable ally. For democracy to operate effectively, though, the freedom of speech, though, academic research, and religion must be guaranteed so that individual citizens can draw their own appropriate conclusions. To enable this, people must have access to correct facts, rather than fallacies, distortions, biases, and factual errors. This public comment seeks to present a number of historical facts relating to "comfort women" that have not been adequately brought to light so as to enable the readers of this respected publication to draw their own conclusion.

■この広告によれば、歴史的事実を公的文書から提供するのが目的らしい。そのことに成功しているかどうかは、議論しないが、管理人の述べたいことは、この問題は、もうすでに欧米にまで広がった、政治問題である。

つまり、誰が、何のために、どうやって、又、誰に対して、この辺りをもう少し考えないといけないのではないか。今、必要なのは、アメリカとの歴史認識問題での摩擦だとは考えない。管理人には、短期的なナショナリストの自己満足にしか映らない。現在の国際情勢、東アジアの国際環境、日米の関係とパワー格差、このような総合的な判断のもとで、日本の国益を考えてのものか、非常に疑問が残る。

有志の方々が、日本の理念やプライドも国益であろう、そのために、新聞広告を媒体に、アメリカの政治家・世論に訴えたと考えられる。

が、それがどれだけのコスト・ベネフィットを得たのだろうか。安部総理をはじめ、この問題で、火消しに取り組んだことへの蒸し返しでしかない。確かに、戦中、占領期の多くの史料は、アメリカやイギリスが持っている。それならば、これまで、共同で歴史研究などを行い、それを国際社会に説明、説得してきたのだろうか。そのことの反省もなく、やられたら、やり返せ的な安易な発想での、このやり方では、説得・妥協はできない。それゆえ、ただのナショナリストの一時的な自己満足にしか映らない。このことが、アメリカの親日・知日議員の居場所を悪くすることを理解しているのだろうか。

これでは、ただでさえ、日本のイメージを下げたにも関わらず、更に、下げるだけである。

短期的にイメージ(理念やプライド)を損ねたとしても、中長期的に回復、向上するための、広報戦略、広い意味でのパブリック・ディプロマシー戦略を策定することが、今、必要であろう。事実検証の歴史的研究は、アカデミズムに従えば良い。

勝ち負けで論じるのは、非常に稚拙だが、アメリカにおける、ロビーイングや、コネクションという点においては、韓国系、中国系の方が、現状、日本より狡猾で上手である。つまり、負けているのである。その現実をまず認識した上で、上記の戦略策定に当たらなければいけない。

最後に管理人は、黙っていろとか、アメリカに何でも従えと言っているのではない。日本は、言うべきことは言えばいい。ただ、それが言うべき事で、誰に、いつ言うのか、もっと考えてもらいだけである。

決議は採択されるであろう。こうなった以上、日本は、公式に、(少なくとも今回のような政府と有志とが矛盾しないよう)、少しずつ、働きかけるしかないであろう。そしてそれは、欧米・アジアを中心とする、世界の研究者の協力を経た形での歴史検証を根拠にすべきことは言うまでもない。

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「日本史・世界史」カテゴリの記事

コメント

こんばんは
TBどうもです。
このクソ忙しいのに、「慰安婦決議案採択」ネタで深夜までネット徘徊する自分が情けないでごいす。

慰安婦問題を現在の恵まれた環境で観察していては見えるものが見えないかなと思います。あの当時の社会状況、つまりは、格差、身分、男尊女卑といった社会情勢下の国家総力戦ですからね。

>言うべきことは言えばいい。ただ、それが言うべき事で、誰に、いつ言うのか、もっと考えてもらいたけである。

本当にそう思います。事態の沈静化を願った日米スタッフは本当に疲れいるでしょうね。

投稿: SAKAKI | 2007年6月22日 (金) 00時05分

 もう付言する必要もないエントリーですな。
 前面的に「御意」です。
 この決議案採択阻止のために日米関係の「現場」がどれだけのエネルギーを使ったかと思えば、この展開には、「脱力」せざるを得ません。拙者も、「脱力」したので、エントリー更新は休みです。

投稿: 雪斎 | 2007年6月22日 (金) 02時07分

>SAKAKI様へ

コメントありがとうございます。
深夜まで、ネット徘徊、お疲れ様です。

仰るとおり、現在の状況から、過去を見るのは、非常に困難です。ただ、私達には、当時生きていない以上、それしか出来ません。

史料をコンテクストから慎重に検討するほかありません。

ただ、この問題は、もう、学問的な論争ではないですね。現実の政治の問題なんです。だからこそ、リアリズムが必要だと考えます。

本当に、沈静化にご尽力された日米スタッフは、肩をおとしているでしょうね。


>雪斎さん

コメントありがとうございます。
私もただでさえ、梅雨時期、体調が芳しくないのですが、この件で、さらに脱力です。

雪斎さんをはじめ、「現場」の方は、本当に、お疲れのことだと思います。

それにしても、ナショナリストの相手は、疲れますね。

又、少し休まれて、エントリーを再開されるのを待っております。

投稿: forrestal | 2007年6月22日 (金) 11時57分

TBありがとうございました。

ご指摘のことごもっともと思います。いわゆるロビー活動については確かに中国や韓国の方が日本より長けていると思います。今回の決議案についてもアメリカに対しての行為ではないわけですし、第2次大戦で無差別爆撃や原爆投下をしたくせに「大きなお世話だ。」という気持ちもあります。

しかしながらアジア諸国に対しては軍隊をそこに送り戦闘行為に及んだ訳ですから言い訳のしようのない部分があると思います。「戦争とはそんなもの、キレイ事では語れない」という斜に構えた意見をしばしば見かけますが、数多くの人がいろいろな形で苦しんだという現実があるのですから、それも現実を直視していない見方だと思います。

今後ともよろしくお願いします。

投稿: o_sole_mio | 2007年6月23日 (土) 17時21分

o_sole_mio様

コメントご丁寧にありがとうございます。

仰る通りで、肯定/否定という単純なものではありません。私が、今回の件で思うことは、もっと柔軟に、狡猾にことを進めてもらいたいということです。

つまり、この意見広告を出して、何になるの?ってことです。

アジアにおける歴史検証も政治が先走る前に、慎重に検討しなければいけませんね、もうすでに、政治が先走っておりますが。。。

反省すべき点があれば反省し、学習すべき点があれば、学習すれば良いと考えています。

コメントご丁寧にありがとうござました。今後もよろしくお願いいたします。

投稿: forrestal | 2007年6月23日 (土) 22時44分

はじめまして。板倉と申します。
いつも冷静かつ現実的な知見を非常に興味深く拝見させていただいています。

私から見ても、この広告、特にFACT5は「公娼制度」とか「占領軍慰安所」とか、事実の指摘どころか悪質な居直りとも受け取られかねないもので、今のタイミングで出すものとしては最悪だと思います。
今回の広告の賛同者、特に政治家たちは、自分たちがホロコースト否定論者と同類と見なされてしまう可能性を全く考えなかったのでしょうか。
決議阻止に奔走していた現場の人たちは「この広告は日本政府とは関係ありません」という説明をするためにまたまた走り回る羽目になったわけで、本当に気の毒ですね・・・。

戦後の日本は平和国家として復興し、謝罪や補償もそれなりに行ってきたわけですが、それが一部政治家の軽率な発言によって何度も台無しにされ、信頼構築に結びつかなかったという経緯があります。
安倍首相の「狭義の強制性」否定発言で火がつき、この広告でとどめを刺した今回のケースにしても「またか」という印象です。
人間は時として自分のやっていない、罪がないことでも責任を負わねばならないことがあります。
ただし、日本の過去の歴史の責任は個人が負うものではなく、日本人全体で負うべきものであり、政治の責任です。
この点、安倍首相以下、本当に自覚してもらわないと困ります。
(年金記録問題での菅直人氏や現場職員への責任転嫁ぶりを見ると「こりゃダメだ」って感じなのですが・・・)

これだけ国益を損ねるとわかった以上、いっそのこと、責任ある地位にある人の歴史問題に関する発言は禁止した方がいいかもしれません。
そうすれば野党やマスコミの挑発的な質問も封じることができるだろうし、事実の検証はアカデミズムやジャーナリズムが少しずつ積み上げていくしか無いと思います。
今回の広告みたいな煽動的・挑発的なのはとにかくダメです。

>それにしても、ナショナリストの相手は、疲れますね。

forrestalさんも雪斎さんもお疲れのこととは思いますが、これからも頑張ってください。
長文失礼しました。

投稿: 板倉丈浩 | 2007年6月24日 (日) 03時17分

板倉丈浩さま

はじめまして、コメントご丁寧にありがとうございます。

事実検証が途中かつ、曖昧なものについて、このようなやり方ですることは、マイナスになれど、プラスにはなりません。また、日本のみの研究では、説得力も弱いでしょう。御説にもあるとおり、地道に諸外国に対して、説得していくしかありません。

正直言えば、この決議は、アメリカの人権問題としての国内世論向けの大統領選を睨んだ、国内消費用なんです。この決議が通ったからといって、日米の関係に大きな変化が起こるわけではないですし、この決議でもって、諸外国(政府)が、日本は、認めた/認めないという考えには至らないでしょう。それは、これまでの日本政府の見解、主に、アジアにおける行動を見て判断されるものです。

私から言えば、日本の理念やナショナル・プライドとはこの程度のものなのですか、この程度のことで、満足するのですかということです。ですので、一部、ナショナリスト向けの一時的な自己満足にしか映らないわけです。では、この広告をだした後、具体的にどうするのかという視座がまったく見受けられません。

歴史認識にまつわる政治問題というのは、短期的に結果が出る可能性は、低いのです。結果を急いではいけませんね。エントリにも書いたように、地道に広報外交していくしかありません。(説得・妥協をすすめていく)

「自分たちが、正しいと思っていることが、いつでも、どこでも」通用するわけでない。国際政治の常識です。

コメント本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。

投稿: forrestal | 2007年6月24日 (日) 12時01分

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